「貸本マンガReturns」は面白い ― 2006/03/21 22:58
「貸本マンガReturns」(貸本マンガ史研究会,ポプラ社)は貸本マンガについての研究書(入門書)です。
貸本マンガについて,ジャンルごとに作家・作品を紹介しながら社会からの影響・読者層,どのように消費されたかなどを交えて貸本マンガの世界を描いています。
時代劇,探偵・アクションもの,少女マンガ,怪奇マンガ,青春マンガについて紹介していますが,あとがきによると,戦記,ユーモアなど取り上げられなかったものもまだあるとのこと。
作品紹介の羅列ではなく,貸本世界(業界・読者・作家)の関係についてかなりの比重で書かれているのが,大変面白いところであり,マンガの多様性の生み出され方を考える上で参考になるところです。
(主には序章の「貸本マンガの豊かな世界―戦後の貸本業界と貸本マンガ」に書かれていますが,それぞれのジャンル内でも折に触れ登場します)。
章ごとにコラムがありこれも
- 出版社による「サービス」の実態
- 貸本マンガの「読者のページ」
- マンガ家と読者を結ぶもの
- 貸本マンガの流通過程
など興味深いものが多い。
また,巻末に資料として
- 貸本マンガ関係年表
- 貸本マンガ家リスト1000+α
- 主要貸本マンガ出版社リスト
もあります。
特に,社会の出来事・通常のマンガ界の出来事と並列して記述されている貸本マンガ関係年表はその時代を肌で知らないものにとっては,状況を確認する上で大変参考になります。
個別に面白かったところいくつか。
- 編集者が存在しなかったのでかなり作家の自由であった
- 作家による読者像の意識
- 講談の影響
- 紙芝居作家の流入
- 少女ものの貸本マンガの世界(女性の読者は決して少ないわけではなかった)
- 質と人気は必ずしも一致しない
週刊誌がマンガを借りるものから買うものへと変えた(P.30)
貸本マンガが壊滅に向かうのと歩調を合わせるように,マンガブームが起こる。(P.31)
大変に面白い本ですが,主観的な色合いの強い部分(含むイデオロギー的部分)もありそこいら辺は割り引いて読む必要があるでしょう。
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