愛の経済学者 韓リフさんにお勧めする小林信彦の小説~「オヨヨ」と「イーストサイド。リバー」を柱に~2006/02/25 03:23

ほとんどが新刊での入手が不可能になっていますが,古本での入手は可能なものばかりですので分けませんでした。

結局,中期以降をほとんどいれた形になってしまいました。

基礎系

オヨヨにギャグでつながるものとして唐獅子シリーズは抑えておきたいところです。

オヨヨや唐獅子のような“喜劇的想像力”のものとしては,短編集の

「笑いごとじゃない―ユーモア傑作選」(文春文庫)(単行本「発語訓練」+α)

ソ連に日本が占領された世界を描く「サモワール・メモワール」がおかしくて悪夢的です。

おそらく氏も紹介していた「笑いごとじゃない―世にも明るい闘病記」(ジョーセフ ヘラー,ちくま文庫)から題名をとったと思われます。

集大成の長編として,また現代史もののさきがけとしては「僕たちの好きな戦争」があります。

「僕たちの好きな戦争」

喜劇的想像力の集大成。あの戦争を勝っているときには,みんなどう楽しんでいたかが描かれます。位置づけは筒井康隆氏における「虚構船団」。

ラノベ的なもの

オヨヨのライトノベル的側面の発展系ともいえる小説。

ラノベに近いもの

「イエスタディ・ワンスモア」

本人の言うとおりキュートな小説。高校生の夏休みの読書にふさわしい本。

男子高校生が1959年にタイムスリップする,時代的逃亡者の小説。主人公は若いのに老けた考え方をしています。

あとがきより抜粋

 
この小説の中に出てくる,戦前に建てられた川岸のアパートメントは創作であるが,モデルは存在する。両国橋を本所の方へ渡ってすぐ左側にある煤けたアパートメントである。(「流れる」という1965年の映画では,このアパートメントは光り輝いている。高峰秀子が川岸を歩く唯一のシーンで遠くに見えるのだ。
「ミート・ザ・ビートルズ」

「イエスタディ・ワンスモア」の続編。舞台はビートルズ来日の1966年。

かなりの資料を集め,また,キャピタル東急に泊って,エレベーター関係その他を調べ上げたということもやっています。

当時,パンフレットを元に間違っていると指摘したマニアと実際に見たんだという小林氏で論争がありました(確か)。

「極東セレナーデ」

朝日新聞の夕刊に連載(1987年)。広告業界と原発の話。

広告代理店の切れ者が経済効率よくフツーの女の子をアイドルに仕立て上げる話。

バブルに突入する前のアノ時代がよく出ています。

ライトノベル的部分から「イースト~」などにつながっていくもの

「ハートブレイク・キッズ」

公明新聞連載(1988年)

若い女性が佃島のリバーサイドにある人気作家の高級マンションの留守番を頼まれ,事件に巻き込まれる。

作者も余裕を持って書いている軽めの小説。

単行本の帯のキャッチフレーズは“現代のTokyoに住む私たちのコミカルでロマンティックな毎日”。かなり嘘だと思います(笑)。

やはりというか下町に詳しい男(若い)が登場します。

青春小説

「世間知らず」(文庫では「背中あわせのハート・ブレイク 」)
 

著者いわく最初で最後の青春小説。舞台は朝鮮戦争勃発前後の1949-1950年。16歳の高校生と親戚の混血の少女との恋愛が時代を絡めて描かれます。今となっては米軍占領下の日本はほとんど異世界です。

かなり,せつない小説。

「イーストサイド・ワルツ」につながっていく大人向けのもの

「世界で一番熱い島」

南海の小国での陰謀と熱愛の物語。グレアム・グリーン的。様々な陰謀や欲望がうずまく。

「 イーストサイド・ワルツ」や「ムーン・リヴァーの向こう側 」が精神的逃亡者であるのに対して,肉体的逃亡者。

ある島国でホテルマネージャーをやっている日本人が主人公。トルソ(胴)に対するフェティシズムの持ち主。

微妙な関係しかない時代物

裏表忠臣蔵

ご乱心により不条理な世界に突き落とされ時代に翻弄された人々(吉良と浅野家の家臣)を黒い笑いで描く。

そこには悪い吉良と正義の義士という観点はなく,立派な心がけも登場せず,人は己の損得に従って行動し悲劇へと突入する。

都会に対する田舎モノの複雑な心理とそれに気付かない都会のモノというモチーフも見え隠れする。

まとめ

少年的な部分では「イエスタディ・ワンスモア」と「世間知らず」大人的な部分では

番外その1

小説ではないですが補助教材として小説論を

「面白い小説を見つけるために」(知恵の森文庫)。単行本は「小説世界のロビンソン」

著者いわく小説を論じるときには、この程度のことはわきまえておいて貰いたい最低限度の常識を書いたもの。SFと推理小説の想像力の違いについ述べた『早すぎた傑作「火星人ゴーホーム」』,フラット・キャラクターとラウンド・キャラクターについて述べた『「我輩は猫である」とフラット・キャラクター』など面白いです。

番外その2

新潮オンデマンドブックスにて10点復刻されていますが,値段が高い!

新潮オンデマンドブックス:http://www.shosai.ne.jp/shincho/old_writer.html

  • 怪物がめざめる夜:2625円
  •  
  • 神野推理氏の華麗な冒険:3150円
  •  
  • 紳士同盟:4305円
  •  
  • 紳士同盟ふたたび:3990円
  •  
  • 素晴らしい日本野球:2520円
  •  
  • 世界でいちばん熱い島:3465円
  •  
  • 世界の喜劇人:3255円
  •  
  • ビートルズの優しい夜:2625円
  •  
  • 夢の砦(上):5775円
  •  
  • 夢の砦(下):5775円

紳士同盟はコン・ゲームの小説。「素晴らしい日本野球」は「発語訓練」の改題で“喜劇的想像力”が爆発した短編小説集。どちらも気軽に読むタイプの小説なのにこの値段は・・・Orz

完全なる番外

「フルーツ・バスケット」(高屋奈月,白泉社)

小林信彦ではないのですが^^;。その上少女マンガですが…。現代のマンガの豊潤さをあらわしています。後の方の巻になって最初の頃に伏線が張られていたことに気付かされたり,暗い話のあとにギャグを織り交ぜ,暗いままにしないなど,絵の達者でない加減と裏腹の構成の巧みさがあります。

「冬ソナの経済学」を読み返してみて,利己的と利他的が入れ子になっているようなこのマンガが合うのではないかと思い推薦させていただいた次第です。

メモ 刺激を受けたものと考えているもの2006/02/25 03:31

手塚治虫の視線
 手塚治虫の古臭さ 視線が近所のお兄さんが子供に対するもの
  上から下(見下しているというわけではなく)
 現代のマンガはほとんどが水平(仲間うち,同年代に向けて)

呉智英氏の「現代マンガの全体像」
・職人的ともいえる物語作りのうまさ(禿同)
・知性ある職人
・手塚治虫の知性は、こういう一種の職人的知性と見るべきであろう。それは悪い意味ではなく無思想的であり,中性的であり,また万能薬的でもある。別言すれば教師の知性であり、(略)医者の知性でもある。

増田悦佐『日本型ヒーローが世界を救う!』
内容に賛同するかはおいておいて刺激的です。
引用されている文献からすると,(一本道を通す為に)わざと強引な言い方になっているのでは?

やおい,アニパロ
 創作行為であるが,消費の一形態という側面もある。どのように消費しているかを見せる為の行為。そのためカップリングとその順序アス×キラかキラ×アスかが重要。ファッションセンスと同様。

ガンダムシードに見られる,作品自体の不人気とキャラの人気の乖離(番組内容には文句を言いつつもキャラに萌える)。
作品の消費からキャラの消費へ
「テヅカ イズ デッド」買うべきか?

消費による制作
 →びんちょうタン、OSたん、あふがにすタン
消費からみるマンガ論

ワンフェス
 売れているのは技術的優秀さばかりでなく,キャラの選択も大きい。必ずしも良い出来のものでなくても,キャラにより売れる。
 ワンダーショーケース。ワンフェスリセット宣言。
食玩の影響
 ・来場者の増加(の割に売り上げは伸びているのか?ガレキは未完成のキットゆえ敷居が高い)
 ・原型師の職の広がり。
食玩の人気とカプセルトイ(ガチャガチャ)の先鋭化